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ヘロドトスの歴史叙述における予言の役割

加納哲夫

『ヘロドトスの歴史叙述における予言の役割』要旨

 

 ヘロドトスはその著『歴史』の中で、神託・夢・徴(しるし)などの予言(=オックスフォード古典辞典は「神々の意志の現れ」と定義)を多用して叙述を進めている。その使用数は同時代のトゥキディデスやクセノフォンに比べ圧倒的に多い。しかも重要な叙述の場面は、例外なく予言とともに語られる。ヘロドトスにとって予言とはどのようなものであったのであろうか。

 ヘロドトスは叙述の中で、神託・夢・徴についての自身の見解をはっきりと語っている。全体の予言の中でおよそ三分の二を占める神託については「その真実性は疑うことはできず、その判断は絶対的であって否定することはできないし、他人が否定することも許されない」としている。また1割強を占める夢については「将来に必ず起こることを明らかに示す神意の現れである」とし、また全体の約3割を占める徴については「災厄の前に将来起こるとを予示する神意の現れである」としている。

 神託は大きく‘命令や判断を示す神託’(神託全体の約6割)と‘将来を予示する神託’(同約4割)に分かれる。このうち‘命令や判断を下す神託’については、神託を伺った者に対し最終決定となる命令なり判断を下している。一方‘将来を予示する神託’を詳細に見てみると、ヘロドトスは神託を‘災厄の前に将来起こることを予示する神意の現れ’ととらえていることがわかる。また夢についても‘災厄の前に将来起こるであろうことを予見する神意の現れ’としている。

 以上からわかるとおり神託のうちの‘将来を予示する神託’、および夢のすべてと徴のすべてはいずれも‘将来は災厄がもたらされることになる神意を示すもの’とヘロドトスはとらえている。ヘロドトスにとって人間界の出来事は少し長い目で見れば、繁栄とそれに続く災厄を経ての衰退の繰り返しなのである。その認識は神の意志であると同時に、ヘロドトスの人間界の出来事に対する根本認識であった。ヘロドトスは、国家の繫栄に続き生ずる災厄を各種の予言によって示すことにより、人の世の移り変わり、すなわち人の歴史を描いたのである。

※以下は先ず「本論」を掲載し、次に資料として「予言表」を、最後に「参照文献表」を添付しています。

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